ドラムのチューニング、とりわけスネアのチューニングにおいては『ピッチ』という言葉には二つの意味があります。おもに皆が使うピッチと言うのは『音のシェイプ』でしょう。つまりピッチを高くと言う場合、『ドスっ』を『カン』に、との音の印象、音のボディ感を指していることが多くはないでしょうか。
そしてもう一つのピッチとは『カーン』とか『ポーン』と持続する音色そのものの『音程』。
これが意外と雑に扱われている『ピッチ』なんです。

これは、音程なのであるから『合ってなくてはならない』という側面があります。歌手の音程と同じなんです。

例えば一つのスネアをショットすると沢山の倍音が出ます。
その倍音同士がどういう音程関係になってるかが一つ。気持ちよい和音感で聞こえていなければならない時もあれば、あえてずらして暴れを演出するチューニングもあります。

しかし、比較的シンプルな倍音構成でチューニングした場合、topに来る音程と言うのは非常に重要になるのですね。それは、その音が常にピアノの高い鍵盤を連打してるような音の役割を担うから。
他の楽器のコード進行的なモノとの相互関係。
ゆってみれば『通奏高音』です。
コード感をそのtopの倍音の音程が支配してしまう時があるんです。

しかし、ドラマーはこの役割に気がつかず、ひたすら自分自身が個人的に気持ちのいい『カーーーン』を目指す。そこが落とし穴で、ドラマー自身には非常に漠然とした『鳴りだけ』『響き』だけの『カーーーン』でしかないことが多いです。ひたすら自分が気持ちよければいいと思ってる節があります。

なぜなら、ドラマーの耳の位置は爆音なので、意外と回りのアンサンブルが奏でているコード感、音程感と比較して自らの『カーーン』を判定する事が出来ていないようです。

果たしてそのtopの音程について曲のkeyに対してどの音程でチョイスするのか?は、曲調やセンス、用いるスネアの違いによって変わってくる。1度?3度?5度?短7度?
しかし一つ言えるのはジャストであればいいという訳ではないと言う事なんです。
(じゃあ例えば半音で転調する曲はどうすればいいのか?そもそも一曲ごとスネアを替えられないLIVEはどうなの?って話は難しすぎるので割愛)

歌謡曲や演歌の歌手はロングトーンの音程の取り方をわざと低く取ったり高く取ったりする。ソレが個性になっている歌手も少なくないですよね。前川清さんの高めとかとても好きですよ!www

スネアのピッチにも似たような事がいえるんです。曲や選ぶ音程によって高めがいいとか低めがいいとかがあるんですよ。(ピアノの調律において低い音域はさらにやや低めに、高い音域はやや高めに、なんてやってるのもヒントになるかもしれないです。)
ソレは勿論叩き方でもコントロール出来ている次元のドラマーもいますよ。山木さんとか。

しかもライブではそれほど気にならないのがレコーディングだとやたら気になったりします。そのビミョーーーーな音程の高い低いが。ほんの数セントの違いが死ぬほど気持ち悪く感じるので、レコーディングではそこを最も気にしています。

それとその音程の濁り。スネアのチューニングは複数のボルトのテンションで決めますが、その各テンション位置での張り具合がそのまま、合唱団の『一人一人』みたいな役割を果たすので、どっかのボルトのテンションが微妙に高かったり低かったりすると、それはそのまま音程の濁りになります。もちろんボルト毎に全く違うテンション(音程)にすることもありましょうが。

ここが甘いドラマーさんがとっても多いですね。経験的に。それはやはりドラマーは耳元で爆音で聴いてるからだと思います。

ここでひとつ世界的1流ドラマーのちょっとだけ惜しくもったいない例を紹介しましょう。
シェイプと言う意味のピッチ感やサウンドは最高なんですが、音程的に『ちょっとだけぶらさがっていて気持ち悪い』スネアの例。曲頭は比較的合ってますが最後の方はかなりぶら下がっていて気持ち悪いです。

 

ね、曲頭ですでに微妙に低いですし、ケツの方さらに低くないですか?しかも濁ってます。

『しかし!!!!!!』

頭は合ってるのにケツの方ではスネアが下がっちゃっている。

それこそが『この「曲は1発録りなんだ!!!』というリアリティーを感じさせる」わけです。

レコーディング作品としてはこちらの方がスネアの音程なんて些細と言えるほど大事。マヌカチェ本人が気づいてないわけはないと思うので、演奏の良さを重視したんだなーって聴き方ができます。そう考えると楽しくないですか? 音楽の深みの一つと言えませんか?こういうのが。。。。

それが結局、レコーディングスタジオにおけるマジック、レコーディング芸術の醍醐味なんですよね。何事も『音楽第一』であるべきと思います。

これが、『単に分離が、とか、いい音が』とかだけを目指すのにはとどまらないレコーディングの面白いとこです。